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2023.03.15

陳建一先生の思い出

去る3月11日、赤坂四川飯店オーナーシェフ・陳建一先生がご逝去なさいました。
たいへんお世話になった先生の訃報に驚き、悲しみ、学園よりお悔やみを申し上げます。

本校家政科は調理師養成施設に指定され、3年生になると著名な先生を特別講師としてお迎えしています。
陳建一先生は平成8年度(平成9年・1997年2月3日)から講師をお願いし、本場の四川料理をご教授下さいました。
当時の集合写真の中央が若き日の陳先生、以来25年以上にも亘りお忙しい中で毎年のようにご指導いただきました。

画像については四川飯店様にご連絡し、掲載の許諾をいただいています。
新しい写真は四川飯店のホームページから、その他の2枚は本校の記録から転載しました。

いつも先生は四川から特別に取り寄せている貴重な香辛料をお持ち下さり、惜しげもなくお使いになりました。
特に先生のお父様の陳建民先生が初めて日本に紹介なさったという伝統の「陳麻婆豆腐」、それはもう絶品。
四川料理の特徴の「麻辣(マーラー)」は、中華山椒(ちゅうかさんしょう)の花椒と唐辛子による独自の風味。
「麻」は花椒(ホアジャオ)の舌がしびれる辛さで、「辣」は唐辛子の舌がヒリヒリする辛さ、大人の味です。
もちろん香辛料を大量に入れただけの大辛ではなく、風味もよく旨味たっぷりの忘れられない美味しさです。

学校での陳先生の笑顔とパワーはテレビで拝見する以上、どんなにお疲れでも楽しく全力でご指導下さいます。
カメラの向こうの無数の視聴者やプロのシェフの前でも、わずか数十人の女子高生が対象でも変わりません。
嘉門タツオさんが『炎の麻婆豆腐』を発売して以来、カラオケCDをお持ちになって歌まで大サービス!!!
旨辛でしびれる舌、鼻から抜ける山椒の香り、そんな中「麻婆麻婆麻婆麻婆」の歌詞が耳から離れず…。

示範の間にも先生は中華鍋をお持ちになり、階段教室の講義スぺースを最後列まで回って下さいます。
「ほら、いい匂いだろ!うまいんだよ、これが。」「あとでちょ~っと食べさせてあげるから待ってなね!」
そして、生徒は一口ずつ陳先生が自らお作り下さった、本物の陳麻婆豆腐を味わわせていただくのです。
とはいうもののお店とは違う女子高生バージョン、香辛料はかなり抑え目、でもショッキングな麻婆豆腐。
もちろん真剣な講習会ですが、先生のお人柄で調理室のあちこちではいつも生徒の楽しそうな声が響きました。

陳先生との一番の思い出は、やはり東京に記録破りの豪雪が降り続き交通機関が大混乱したあの日のこと。
前日に成田でゴルフを楽しまれていた先生は、降り始めた雪がひどくなったのでプレーを止め帰宅なさいました。
途中あまりの雪の激しさに「これじゃ明日愛国に行けなくなっちゃうよ(先生のお言葉通り)」と思われたそうです。
そこで都心のご自宅に帰らずマネージャーさんが学校近辺で宿泊できるところを探してチェックインなさいました。

学校まで徒歩5分のビジネスホテル、レストランは中華料理でした。
「中華の鉄人」がひょっこり夕食にいらっしゃると、シェフ大慌てで大喜び。
中国系のシェフは大雪の中でお友だちも呼んで大サービス、とても楽しいディナーになったそうです。
「これがなかなかうまかったのよ」と嬉しそうにおっしゃる天下の四川飯店のオーナーシェフ、素晴らしい方です。

その翌朝は天気は回復したものの見たこともない一面の雪景色、教職員一同は早朝から雪かきでした。
そんな中、「寒いね~雪すごいね~」と陳先生が歩いておいで下さり、予定通り講習会が始まりました。
家政科3年生も交通機関が大混乱の中で長時間歩いたり保護者が送って下さったりして全員出席、遅刻者なし!
指折り数えた講習会の開講を信じて登校し、全員揃って元気にあいさつする生徒を陳先生も褒めて下さいました。

「生徒さんが待ってるんだもん。約束したし、そりゃ行くよ。」
先生はこんな大変なことでも、楽しそうにお話し下さいました。
あの日の陳先生の記憶は、今でも、いや一生、私の心に深く刻まれます。

そして新型コロナウイルス感染症で講習会が開かれなかった一昨年と昨年。
陳先生から残念がる生徒たちに向けてオリジナルのビデオメッセージを頂戴しました。
生徒全員に「鮮心(せんしん) 陳建一」という色紙を一枚一枚毛筆でお書き下さいました。
四川飯店に行かなければ購入できない「麻婆豆腐の香辛料セット」をご手配いただきました。

今年1月31日、3年ぶりに開催した中国料理講習会は四川飯店総料理長・鈴木広明先生をお迎えしました。
陳先生と変わらぬ素晴らしいお料理をお教えいただき、例年通り4品を実習し、試食もすることができました。
お父様の陳建民先生から陳建一先生へ、そして鈴木先生やご子息の建太郎先生へと伝統の味が受け継がれます。

「赤坂のお店に来たら『愛国です』って言ってね。厨房も案内してサービスするよ。」
卒業後、生徒の一人がご家族と一緒に赤坂四川飯店に伺った時「愛国です」と言ったそうです。
調理師資格を取得した生徒はお約束通り厨房を見せていただき、杏仁豆腐までご馳走になったと報告がありました。

陳先生の生徒に対する姿勢から、人として多くのことを学ばせていただきました。
こうして悲しみと淋しさの中でいろいろ思い返しても、先生の笑顔しか思い出すことができません。

生徒に、教職員に、たくさんのことをお教え下さりありがとうございました。
感謝とともに衷心よりご冥福をお祈り申し上げます。

愛国高等学校
校長 織田 奈美

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